永遠って何だろう。そんな益体もないことをふと考える。
 それは終わらないということ? 始まりが無いということ? ……よく分からない。でも辞書を開けば『永遠』という言葉がしっかり載っているものだから、つい、そんなモノがあってもいいかな、なんて思う。
 もちろん分かってる、本当は無いんだってことは。でも僕は少しばかり臆病で、この時間が永遠に続いたらいいな、なんてことを未だにどこかで望んでる。
 がたたん、がたたん、と電車がレールを叩いてる。僕と、すぐそばにいる瞳との間の音楽といえば、それだけ。
別に、他愛もない話をするのも悪くないと思う。でもどうしたってそれは、この心地良い沈黙よりはいくらか安っぽくなってしまう気がしたから、やっぱり黙ってた。
 その時、車内アナウンスが流れた。
「次は、○○ー、○○ー、お出口は、右側です。……」
 アナウンスは、その後も何かどうでもいいようなことを言ってた。内容は全然聞いてなかったけど、言葉をそっとぶつ切りにするようなあの独特のリズムが、僕は昔から好きで、ぼんやりその音だけに耳を傾けてた。
「次、だね」
 だから、そう言われてやっと、僕はもう降りなければいけないことに気がついた。
 がたたん、がたたん、と続いてた音がゴトンゴン、ゴトンゴン、という重い音に変わった。いつの間にか電車は鉄橋に差し掛かってた。少し、うるさい。それに紛れこませるように、瞳がまた呟いた。
「しばらく会えない、かな……」
 でも僕は、ちゃんとそれを聞き取ってしまってた。だから聞こえないフリをした。
 今日、一学期が終わり、そして夏休みに入る。僕も瞳も部活をやってないから、会う理由はなくなってしまう。だから夏休みなんて永遠に来なければいいと僕は密かに思ってたのに。
 せめて、このささやかな二人だけの時間が永遠に続いてくれれば、と思ってたけれど、それもじき終わる。
 ああ、だから永遠なんて嘘っぱちなんだ、と僕は心の中で毒づいた。でもどんなに非難したって時の流れは本当に涼しい顔をしていて、電車をまるで押し流すように、駅へ滑り込ませていく。
(そう、永遠なんて無い、『今』しか無い……)
 そんな事を心の中でそっと呟くと、気持ちが決まった。けれど同時に汗が出る、喉が渇いて、震えさえ来た。
 でも、今しかなかった。言うなら、今しか。
僕は怯えてちぢこまっているような喉を無理やり動かした。
「あのさ」
 電車がだんだんと速度を落としていく。瞳が僕を見た。
「ん?」
 猛烈な勢いで頭に血が上るのが分かる。でも視線を外したくなるのだけは何とかこらえた。
「僕は、瞳のこと、良いって……思ってるから」
 電車が止まり、プシュー、と音を立ててドアが開く。ちらほらと降りていく人達。その微かな喧騒の中、僕は瞳を見つめてた。呆、という表情をしてた瞳の顔が、何か、驚いたようなものに変わった。
「○○ー、○○、です。……」
 アナウンスがまたどうでも良いことを言ってる。それが限界だった。僕はさっと振り返って、手だけで、
「じゃあ!」
 と挨拶した。返事は無かった。そして僕が電車から飛び出すと、すぐにドアが閉まった。
 言った、遂に言ってしまった。と僕は深呼吸しながら何度も繰り返した。今、瞳に言った言葉がぐるぐると頭の中をめちゃくちゃにかき回してる。心臓が今さらばくばくと高鳴ってる。
 ああ、本当に言ったんだ。
 そう思うとたまらなくて、僕は電車を見送ることも忘れて、ホームの上を思いッきり走り出してた。



(告白? ・ 了)

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